気づけば、私たちはいつも何かに追われるように生きています。
時間、予定、人間関係、そしてたくさんの「モノ」。
便利さに囲まれた生活のはずなのに、なぜか心は落ち着かない。
そんなときに出会ったのが、「シンプルライフ」という暮らし方でした。
それは、モノを減らすことだけではなく、
五感を取り戻し、自分と向き合う旅の始まりでもありました。
「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触れる」——
私たちの暮らしには、五感がいつもそっと寄り添っています。
けれど、情報や刺激が多すぎる現代では、
この五感が“鈍くなっている”ことに、なかなか気づけません。
シンプルライフを実践し始めてから、
私はこの五感の感度が少しずつ戻ってきたことに気づきました。
それは、まるで五つの音が心の中で静かにハーモニーを奏でるような感覚でした。
白い壁、自然素材の家具、最小限のインテリア。
視界に余計な情報がないと、心まで静かに整っていきます。
テレビもBGMもない朝。
聞こえてくるのは、鳥の声やお湯が沸く音。
何気ない日常音が、こんなにも美しいことに驚きました。
ユーカリの香り、季節の花の匂い、朝淹れるコーヒーの香り。
香りは記憶を呼び起こし、心を今この瞬間に引き戻してくれます。
素材の味を活かした料理。
よく噛んで味わうと、野菜やお米の甘みを感じられ、
自然と「いただきます」の気持ちが深くなりました。
木のぬくもり、リネンの柔らかさ、陶器のざらりとした感触。
触れるものが心地よいだけで、日々がちょっと優しくなります。
五感が研ぎ澄まされると、心も研ぎ澄まされます。
何が好きで、何がいらないのか。
何を大切にしたいのか——。
モノや情報の多さに隠れていた“わたし”の声が、少しずつ聞こえてくるようになりました。
他人の目ではなく、自分の目で「選ぶ」ことができるようになったのです。
モノを減らすことは、感覚を取り戻すこと。
感覚を整えることは、自分自身を整えること。
そして、自分を整えることは、自分を生きること。
五感のハーモニーと共に過ごすシンプルな暮らしは、
わたしを、わたしに戻してくれました。